いらないでしょ、消せばいいんじゃない
「三人もいると大変だね」と言われてきた。
今でもよく言われるけど、たいてい
「4歳、3歳、0歳が揃ってた時代を思うと、今は天国だなぁ」
と答える。
答える度に、今迄一番大変だったのは長女だなぁ・・・とも想う。
年子で弟が生まれた時も、末っ子の妹が生れた時も、余裕のない母のしわ寄せがみんな長女にいった。
何にも出来ない下二人にいら立っては、長女にそのイライラをぶつけていた。
〈戦場〉
会社から帰ったその足で二つの保育園を周り、三人を回収して、夕飯を作り、風呂に入れ、寝かしつけて・・・と
夕方からの我が家は毎日、戦場だった。
子ども達も夕方は疲れているし、眠いから、皆ぐずるし、喧嘩するし、泣き喚く。
三人とも泣き止まなくって、自分も一緒に泣いたことも一度や二度ではなかった。
そんな中、まだ小さかった長女は、常に「お姉さん」を求められて、甘えそびれたことも、
泣きながら寝た日も数えきれないほどあった。
私は、それをわかっていながら、余裕がなさすぎて、長女をうまく可愛がれなかった。
可愛がれない自分に、ものすごいいら立って、余計に怒鳴ったりしてた。
申し訳なさと、やるせなさだけが、小さなとげの様に心に刺さりっぱなしだった。
そんな時、毎週、録画予約していた育児番組が
『どうして我が子を可愛がれないのか』というテーマを取上げた。
それを観て、救われたのか、感動したのか、何も感じなかったのか、今は思い出せない。
でも、なぜか消せなくて、ずっと録画されたままの録画フォルダの中に放置していた。
ずっと。
5年くらいそのままで、一度も見かえしたことがないのに、
ずっと横目で見ながら置きっぱなしだった。
〈いらないでしょ〉
小さかった長女は、小学4年生になり、
自分でリモコンを操作し、録画予約をするようになった。
「録画できる容量が少なくなってきた」と言いながら、いらない番組を消去している長女が、
「『どうして我が子を可愛がれないのか』だって、ふぅーん、自分の子を可愛がれない親なんているのかね?」
と言った。
私は、つい「・・・え?」と聞きかえしたのだけれど、最初から全部よく聞こえていた。
長女は、また
「自分の子を可愛がれない親なんているのかね? 間違って、とれちゃったのかな・・・
いらないでしょ?これ、消せばいいんじゃない」
と言った。
何だかしどろもどろで、
「い、いろんな親がいるからねぇ、世界は広いし」とかなんとか言ったんだけど、
なぜかちょっと涙でそうになった。
これ書いてたら、またちょっと涙でそうになった。
多分、
「いらないでしょ、消せばいいんじゃない」
という彼女の明るい声を、私はずっと覚えてるだろうと思う。
録画しておかなくってもね。