痛いの痛いのとんでいけー
「泣きも叫びもしてないじゃないかーーーー!!」
と叫びたいのをこらえて、涙が出そうになった。
師走。
仕事の資料の不備を見つけ、「あーぁ、急いだらこれか。仕事できねーな、自分」と落ち込みながらも、
鼻水だらだらの末娘を病院へ連れて行くため、一旦仕事は保留。
早く戻りたいから、商店街の空いている耳鼻科へ。
〈親の心子知らず〉
医者が鼻をみようとした瞬間、娘は顔を下にそむけた。
その瞬間、「これじゃ診られませんね」と冷たく言い放たれる。
その不穏な空気と母の怖い顔を見て、即座に顔を真っ直ぐにして座りなおした娘だったが・・・。
「この道まっすぐいくと、〇〇内科、その先に〇〇小児科が、ありますんで」
ま、まじか・・・。顔を一回そむけちゃったらアウトか・・・。
診療拒否。
救いを求めるように看護婦さんを見ると、
その若い看護婦さんは
「もう5歳ですよね、もう大きいのにね、躾がね」と吐き捨てた。
「あぁー、仕事テンパってるだけじゃなくて、母親失格宣言かよーー。」
と、情けなくなって涙が出そうなのを必死にこらえて、診察室を出た。
私の中の悪魔が、
「泣きも叫びもしてないじゃないかーーーー!!」
「一回、顔をそむけただけでアウトって、どんなルールだよーー!」
「なんだよ、一等地のビルでテナントいっぱいだから、面倒な患者はいらないのかよーー!」
と心の中で叫んでいた。
怒ることで、涙をこらえてたんだと思う。
〈いまさら〉
診察なしで出された処方箋の薬を薬局で待ちながら、
怒りと情けなさと悲しさのぐちゃぐちゃの中で、
今迄ずっと、泣き喚く子ども達を診てくれた先生や看護師さんたちの有難さを想った。
診察後に、感謝を伝えることはあれど、
泣いたり喚いたりする子どもを診る大変さまで考えが及んだことも、感謝したこともなかったな。
数日後、かかりつけの耳鼻科に行ったら
大泣きする子どもを抱えて診察室から出てきた母親が
「おぉ、よく頑張ったね。えらい、えらい」
と子どもを褒め、なぐさめていた。
そうそう、そうだったな。
自分も、何とか診察を終えてホッとしながら子どもを褒めたり、なぐさめていたな。
それで精一杯だったな。
今、子ども達は、診察や予防注射で泣き喚く年齢じゃなくなったけれど、
だから・・・
「泣き喚く子どもを診るって、大変ですよね。
でも、先生や看護師さんが優しく診てくれたから本当に助かりました。」
と言えた。
で、言った瞬間に、
あーこうやって自分の先に歩いて行ったお母さん達が、色んな場面で自分のこともフォローしてくれていたんだな、
と気付いたんだよねー。
子どもじゃないのに、泣いたり喚いたり、傷ついたり怒ったりしながらじゃないと、
こぉんなことも気付けないのか私・・・。
先がおもいやられるぜ・・・。
い、痛いな。
まだまだ、私のポケットには、絆創膏が自分のために必要だ。